Dream

対談
その2

代表取締役社長 石井 和徳 製作本部
生産技術部 組立設備一課
中家 大輔

未来創造研究会のBグループを代表して登場したのが、産業機器向けの基板対基板コネクタや高速コネクタ製造ラインの設計開発、量産までの設備調整を担当している製作本部 生産技術部 組立設備一課の中家 大輔だ。グローバル化を推し進めているヒロセは、製造拠点として世界中に工場があるものの、工場での開発機能はまだ満足のいく状態ではない部分も。そんな開発機能の強化についての提言とともに、モノづくりとしての企業に欠かせない生産要素技術開発の充実に関してなど、普段現場で感じているさまざまな課題について、石井社長に質問した。

海外における開発機能強化について

中家 : 最初に、海外の開発機能強化についてお聞きしたいと考えています。ヒロセではグローバル化を数年前から大きなテーマの1つとして進めていますが、生産技術や製品開発の機能は日本と韓国に集中しているのが現状です。「よりお客様に近い場所で情報をキャッチし開発できる環境づくりが必要では?」と思っていますが、海外の工場はあくまで製造拠点であって開発機能は持っていません。日本で生産設備を開発したのちに海外へ移す工数なども考慮すると、「海外でも開発できる環境を作るべきだ」と考えていますが、いかがでしょうか。

石井社長 : 海外の開発機能、特に生産技術の強化が必要なのは十分承知しています。実は以前マレーシア工場を訪れた際に、生産技術のトップも中家君と同じ趣旨のことを語っていました。以前は日本から言われた通りにモノを作っていればよかったが、今では自分たちで色んなことを考えて技術のレベルアップをしてモノづくりに生かしていかないと、お客様のニーズに対応できなくなってきていると。つまり、「海外の現場ではエンジニアリング機能の強化が大きな課題になっている」という認識があります。現在でも海外工場で組立設備の製作や品質改善を実施することができるようになってはいますが、市場の要求に応えるためには、さらに高度なレベルの生産技術力や品質改善能力を身に付ける必要があると考えています。そのためには優れたテクノロジーとマインドを持った人材の育成が重要であり、この状況を改善すべく本社サイドとしてもさまざまな施策を進めていますが、もっと加速させていく必要があることを痛感しています。

中家 : 海外の生産技術や技術機能を強化する際の課題は何なのでしょうか。

石井社長 : 一番は現地のマーケットが求めていることとのリンクで、そこには当然日本側との連携をどうしていくのかを考える必要があります。ヒロセグループ全体として、技術、営業、製造、管理といった各機能を海外の工場や販社側でどう持つべきかを整理して考えなければなりません。単純にローカル化しても、言葉の問題も含めて、ヒロセの強みを活かすことができず、優位に立つことはできないでしょう。日系部品メーカーとして、日本サイドと連携をして、現地のお客様に最適な価値をどうやって提供していくか?が重要なのです。この手の議論をしっかりした上で、実行に移していかなければなりません。

中家 : 確かに、今の段階で海外の工場にすべての機能を揃えてお任せしてもうまくはいかないと思います。ただ、海外の工場に開発機能を持たせることで工場の技術力が向上し、結果的に品質の向上につながるのでは、というのが海外での生産技術強化をテーマに挙げた理由の1つです。では、現時点でどのようなことに取り組むべきだとお考えでしょうか。

石井社長 : 生産技術の強化はもちろんですが、そのためにも今持っている役割を「機能」としてしっかり持つことがまずは必要だと思います。工場側であれば、「しっかり物が作れる」、「技術サポートできる」、「迅速に製造ラインを立ち上げることができる」ようになること。営業側であれば、「しっかりお客様の要望を把握できる」、「お客様との関係を作ることができる」ということ。設計者も今はフィールドアプリケーションエンジニア(FAE)として派遣し活動をしているエリアが多い状況ですが、工場と設計部門、生産技術部門との連携をどうしていくのかということも、しっかり考えていく必要があります。これも、マイルストーンのようなものを定めた上で、どういう時間軸で、どういった機能をどこの拠点でどう進めていくのか、そして日本と海外現地との連携をどうしていくのかを、ディスカッションできる場づくり・仕組み作りは必要だと思います。中長期計画のテーマの1つに含まれていますが、もっとグローバル化の対応を推し進めていかなければなりません。

製造における要素技術開発の専任性について

中家 : 製造における要素技術開発についてもお聞きしたいと思います。数年前に生産技術部に製造プラットフォーム開発課という部署が新設され、製造プロセスの標準化に取り組んでいます。ただし、取り組んでいるのは製造ライン全体に対して、それぞれ個別の製品ごとに実施しており、なかなか標準化の数が増えていません。また、ライン全体ではなく局所的に欲しい技術などは、個人の目標として進めていることが多いのが現状です。普段の製品開発業務が優先されるなかで、組織体制や時間の取り方など、生産技術をさらに発展させていくために要素技術開発を進めていく環境づくりが必要だと感じていますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

石井社長 : 要素技術開発における組織作りは当然必要です。どの製造業であっても組み立てラインがあり、そのラインにはメッキや金型、プレスなど各工程があり、各要素技術に対してチームや専任部隊を持ってその技術の深堀をしている。ヒロセはまだその深堀が十分でないため、「モノづくり力の強化」としてもっと突っ込んでいかなければなりません。本当に強いモノづくりメーカーとして生き残っていくためにも、要素技術の強化はとても重要なポイントです。ただし、この要素技術開発を専任のチームでやるべきなのか、今ある部隊がやっていくのが良いのか、しっかりとした検討が必要です。この課題は製造部門の戦略立案の中でも見ていきたい部分。モノづくりは2年3年でできる技術や能力ではなく、中長期的な視点で培っていくべきと考えています。

中家 : 短期間に習得できてしまう技術は誰にでもすぐにできてしまうので、そこでは差異化できません。もっと前の段階から将来的に必要になる技術を見極め情報収集して、そこに対して手を打つことが重要になると感じています。また、今までのやり方は外部の力や工数も借りて生産技術を高めてきていますが、その方法だとノウハウが社内に残りにくい。今は標準化を進めていますが、早急にヒロセのモノづくりの仕様を確立させ、その上で新たな技術を獲得しなければならないと思っています。

石井社長 : 中家君の指摘通りで、ヒロセのモノづくり力が業界で上位にあるかというと、ある部分ではトップレベルかもしれないが、総合的に上位にあるかどうかはよく検証していく必要があります。産業機器向けコネクタにおいて我々は5年ぐらい前から取り組みを強化してきていますが、その分野を専業で30年以上にも渡って経験し、豊富な知見を持つ同業他社もあり、おそらく彼らが持つ要素技術1つとっても色々とノウハウもあるはずで、我々が追いつくための課題もたくさんあるのは当然です。それでも、先を見て取り組む姿勢というのはとても重要だと思います。いずれにせよ、我々モノづくりのメーカーにとって必要なのは、生産技術や製造技術であり、そこが生命線。要素技術は海外工場も含めて今以上に強くしていかなければだめだと感じています。

中家 : 普段は直属の上司や工場の担当などと接することが多く、直接石井社長のお話をお聞きする機会がほとんどありませんでした。特に製造に関しては、品質向上やモノづくりの強化という言葉を聞くことはありますが、具体的にどうすべきか?ということを石井社長の口からお聞きできたのはとてもありがたかったです。

石井社長 : 我々のようなメーカーは、プロダクトを通して価値を認めてもらうわけで、モノづくりが他社より優れている必要があります。競争関係はこれからも厳しくなってくるはずですが、モノづくりは一朝一夕には成り立ちません。だからこそ、ここでしっかりモノづくり力を強化していければ、飛躍への強力な推進力となると思います。特に“つなぐビジネス”は、チップ部品などに比べてある意味“面倒くさい”もの。でもだからこそモノづくりがしっかりしていることで、価値あるビジネスになるのだと考えています。ぜひ力をふるってもらえればと思います。

中家 : はい、頑張ってまいります。ありがとうございました。