Dream

対談
その4

代表取締役社長 石井 和徳 営業本部 海外事業部
アジア一部 中国課
市岡 修

未来創造研究会のDグループの代表は、東アジアを中心とした海外事業部で営業を担当している営業本部 海外事業部 アジア一部 中国課の市岡 修だ。国内と海外の売上が同等だった10年前から、今では7割が海外マーケットにシフトしており、ヒロセの主戦場は今や海外ともいえる程重要度を増している。市岡は普段から海外マーケットで活動しているからこそ実感している、国内業務の課題や海外で戦うために必要なことを、石井社長に問いかけた。

海外事業展開における業務のあり方について

市岡 : 私がターゲットにしている中国をはじめとした東アジア市場では、急速にビジネスの中身が変わってきています。しかし、業務の進め方は私が入社した頃から大きな変化はないように見受けられます。例えば決裁1つとってみても、もっと海外に移譲したほうが判断するスピードも向上するはず。中国や台湾はビジネススピードが非常に早く、決裁の迅速化によって獲得できる商売もあるという実感があります。市場の状況に応じた業務内容の変化について、どのようにお考えでしょうか。

石井社長 : 私も海外に出向く機会は増えていますが、とてもビジネスの展開が早いというのを、現地に行くたびにヒシヒシと感じます。特に市岡君は普段からセールスで海外に行ってやり取りしているので、現地はものすごいスピードで動いているのを目の当たりにしていることでしょう。中国では、5年後には10倍の売上まで事業を拡大させる企業がゴロゴロ出てきているのに、いざ日本に帰ってくると、日本での業務の進め方がもどかしいと感じてしまうのでしょう。そういうことを思うこと自体がとても大切だと思いますし、より良い価値をお客さまに提供することが我々の仕事だからこそ、「変えるべきところは、どんどん変えていくべき」だと私も考えています。

市岡 : 日本のヘッドクオーターでやっている業務のなかには、個人ごとに培ってきたスキルに頼った取り組みになってしまっていると感じることがよくあります。もちろん、いい面もあるのですが、急激に海外シフトが進むなかで、同じような教育や業務フローは海外ではとてもできません。逆に工場はシステム化されすぎて、フレキシビリティにかける部分も。その中間あたりでうまくやれるような環境ができると良いと思います。

石井社長 : 具体的にどうしていけばいいのかは、まだ答えが見えていませんが、そういう意識が薄れる前に、きちんと声を上げてもらうことが重要です。今は社内改善プロジェクトが動いており、そのなかで取り上げてもらうような動きをして欲しいと思います。決して市岡君の声が小さいというわけではありませんが、しっかり声を届かせるような工夫も必要です。市岡君の周りの声も集めて一つにして、部署を動かす、本部を動かす、会社を動かすという大きな流れにしてくれると、もっといい会社になると思います。実際、会社を動かしているのは市岡君のような若い社員であり、君たちの発信力がもっと強くなって、会社を変えていけるような環境にしていく必要があることを痛感しています。我々もそれを受け入れるだけのキャパシティを持たなければなりませんが、もっと前線の声を聴くためのキャッチボールを積極的に行っていきたいと思います。

ビジネス強化のための企業買収について

市岡 : これから10年スパンで自社が強さを身につけるにはどういう方法があるのかチームで議論した際に、企業買収という話題が出てきました。例えば昨今の世界的な原材料不足のなかで、材料調達も含めた部分を社内に取り込んでいければ、競争力の源泉になるのではと考えたのですが、どのようにお考えでしょうか。

石井社長 : この質問は、「ズバリ企業買収が有りかどうか?」が問われているものですが、ビジネスの次なる展開としてこのオプションは当然ながら有りだと思います。企業買収(M&A)という言葉だけでなく、連携や協業などを含めていろんな形態がありますが、外部との強いリレーションによってビジネスを拡大、強化するという選択肢は当然あるでしょう。ただし、M&Aそのものが目的になってしまってはイエスとは言えません。市岡君が指摘するように「企業を強くするための一つの手段」だということであれば、イエスという回答になります。しかし、M&Aを成功させるのはとても難しく、ある経営者は「M&Aの88%は失敗。10%は成功か失敗かわからない。そしてわずか2%のみが成功。」という表現をしているくらいシビアなもの。現実はそんな状況なのです。

市岡 : 石井社長のおっしゃる通り、目的ではなく、あくまで手段として議論していました。そのなかで技術力を向上させたいのか、購買力なのか、営業力なのか、システム力なのか考えてみたときに、チームとしては購買力という結論に至ったのです。確かに困難なプロセスだというお話でしたが、他社も同じ状況のはず。難しいからこそやることが、将来のうちの強みになるのではないかと考えたのです。

石井社長 : 購買力という意味でいうと原材料ビジネスの話になってきますが、原材料ビジネスのプロが社内にいないため、連携する先で相当いい人間に出会わないとまず成功しないと断言できます。どういう目的で買収して、買収した後のシナジーをどうするのか、マネージをどうするのかというのを相当突っ込んで考えないといけないテーマで、しっかり専門チームを作って取り組んでいく必要があります。M&Aは自分たちに“心技体”のパワーが揃っていないと絶対成功しないものなのです。

市岡 : 我々は物を作って買っていただくことしか今のところはできません。だからこそ、原材料の調達は強くするべきだと思ったのです。実際に中国では、原材料の調達ができないローカルの部品メーカーから、我々のほうに商売が転がってくることも少なくありません。そんな状況を目の当たりにすると、やはりヒロセ自身が素材を購買、調達する力を強化することがとても重要だと感じたのです。

石井社長 : これは、将来においてもそうですが、まさに現状の課題としても認識しているところです。M&Aをするかどうかは別にして、サプライヤーの協力を得られるようリレーションを強化することは経営的な課題でもあるのです。極端な話、サプライヤーにとってヒロセは大勢の中の1社でしかありません。今後、調達力・購買力の強化は、ヒロセ電機としてしっかりやっていかないといけない重要なポイントだと思います。

市岡 : 今日お時間をいただいて、提携とか人脈作りなど、企業買収だけが手段でないということに気付くことができました。そういえば、チームでは具体的に落とし込めなかったのですが、事務作業的なものをうまくアウトソーシングしたりAIなどを活用したりすることで、営業リソースをマーケティング施策の立案など違う部分に振り分けられるといいのではという議論にもなりました。この点はいかがでしょうか。

石井社長 : それはその通りだと思います。最終的には人の勝負になるため、人の知恵や力を生かす仕組みにしていかないと、会社は生き残っていくことはできません。今まで以上にIT化を進め、まあAIの活用がどこまでいけるのか判断できない部分もありますが、いずれにせよ効率化という面で新しいテクノロジーをもっと積極的に取り込んで、人はもっとイノベーティブな業務に取り組んでいけるようにしていきたい。特に若く、才能のある人たちには、そんな働き方ができる環境を提供していきたいと思っています。

市岡 : いろいろと意見を聞いていただき、ありがとうございました。